カモミールティーを一杯飲むことと、カモミールの精油を皮膚へ塗ることは同じではありません。ショウガを料理に使うことと、濃縮した抽出物をカプセルで飲むことも別です。それでも売り場では、どれも「植物の力」という一つの言葉にまとめられます。
植物療法には長い歴史があり、現代医学が植物から学んだ薬もあります。だから、伝統的な利用を古い迷信として切り捨てる必要はありません。一方で、長く使われてきたことだけでは、すべての用量、製法、対象者に安全だとは言えません。まず、目の前の製品が植物のどの姿なのかを確認するところから始めます。
A name is not a preparation.同じ植物名でも、同じものとは限らない。
欧州医薬品庁は、ハーブ製剤の工程として、粉砕、抽出、蒸留、圧搾、分画、精製、濃縮、発酵などを挙げています。乾燥葉を湯で浸出したもの、アルコールで抽出したチンキ、蒸留した精油では、取り出される成分の組み合わせも濃度も変わります。
植物の部位も重要です。根に多い成分と葉に多い成分は同じではなく、花、果皮、種にも違いがあります。医薬品として比較する場合には、植物種だけでなく、使用部位、抽出溶媒、濃度、製剤の状態、用量が近いかどうかまで確認されます。「研究で使われた植物と同じ名前」が、そのまま「店頭の商品にも同じ結果が期待できる」という意味にはなりません。

with a Latin name.和名や商品名だけでなく、学名、部位、抽出法までが製品を見分ける手掛かりです。American Medicinal Plants, 1887 · Public Domain
Essential oil is not the whole plant.精油は、植物そのものではない。
精油は、植物の芳香成分を蒸留や圧搾によって集めたものです。ハーブティーや料理で摂る植物とは、成分の割合も濃度も異なります。数滴という小さな量でも、皮膚刺激やアレルギー反応が起こることがあります。柑橘類などの一部では、皮膚へ使用したあとに紫外線を受けることで反応が起こる可能性にも注意が必要です。
香りが心地よいことと、飲用して安全であることは別です。精油を口から摂る方法は、製品の品質、化学成分、量、服薬、肝腎機能などの影響を受けます。「食品にも使われる植物だから」という理由だけで、家庭で飲用を判断することはできません。
植物の安全性を考えるとき、毒か無毒かの二択では足りません。濃度、経路、接触時間、頻度が変われば、検討すべき危険も変わります。香りを嗅ぐ、皮膚に塗る、飲む、という使い方は分けて考えます。
Natural products can alter medicines.植物も、薬の働きを変えることがある。
代表例がセントジョーンズワートです。成分が薬物代謝酵素や輸送体の働きを強めることで、一部の薬が身体から速く処理され、血中濃度が下がることがあります。経口避妊薬の効果低下、移植後に使うシクロスポリンの効果低下などは、生活や治療へ大きな影響を及ぼします。
一方で、抗うつ薬や片頭痛薬などとの組み合わせでは、セロトニン作用が重なり、副作用の危険が高まる場合があります。植物だから薬より穏やかとは限りません。処方薬、市販薬、サプリ、ハーブを別々の一覧にせず、すべてを一枚に書いて医師や薬剤師へ伝えることが重要です。
相互作用の情報が見つからない場合も、「相互作用がない」とは限りません。研究されていない、製品の成分が一定でない、症例が集まっていないという可能性があります。情報が少ないときほど、妊娠・授乳中、子ども、肝臓や腎臓に疾患がある人、多くの薬を使っている人では慎重な判断が必要です。
安全性や適量まで保証する言葉ではありません。
Tradition and evidence answer different questions.伝統と研究は、同じことを調べているわけではない。
伝統的な使用記録からは、どの土地で、どの部位を、どのように使ってきたかを学べます。それは長い時間を通して残った生活の知識です。ただし、記録には使われなくなった例、副作用が見過ごされた例、現在とは異なる製法や用量も含まれます。
臨床研究は、一定の条件で効果や安全性を比較するための方法です。しかし研究で使った抽出物と市販品が同じとは限らず、参加者数や期間が小さいこともあります。伝統だけを絶対視せず、研究だけで過去の経験を無価値にもしない。二つの資料が何を示し、何を示していないかを分けて読みます。
Quality begins before the bottle.品質は、瓶に詰める前から決まっていく。
薬用植物の品質には、正しい植物の同定、栽培地、収穫時期、乾燥、保管が関わります。野生採取では似た植物との取り違え、土壌や水からの汚染、農薬、微生物、カビなども検討されます。EMAが薬用植物の栽培・採取基準を設けているのは、植物由来の製品が自然のまま均一になるわけではないからです。
ラベルを見るときは、植物名だけでなく、学名、部位、一日量、抽出比、抽出溶媒、ほかの配合成分、製造者、使用期限を確認します。複数の植物を混ぜた製品は、どの成分による反応か判断しにくくなります。体調に変化があったときは、商品名と現物、写真、ロット番号を残しておくと相談に役立ちます。
抽出物には、原料となる植物量と得られた抽出物量の比を示すDERが使われます。たとえば同じ一カプセルでも、抽出比や溶媒が異なれば中身を単純には比較できません。数字が大きいほど優れている、という順位表でもありません。
Keep the plant in its full story.効能だけを切り取らず、植物の来歴も見る。
一つの植物が商品になるまでには、土地、採取する人、加工する人、研究、規制、流通があります。人気が急に高まれば、過剰採取や産地への負担が起こることもあります。自分のためのケアが、遠くの土地や植物を消耗させていないか。その視点もHERBARIUMには必要です。
植物を使うことは、自然へ戻ることではありません。どの製品を、なぜ選び、どのくらい使い、いつ止めるかを判断することです。合わなかったときに「好転反応」と決めつけず、使用を止めて相談する。効いたと感じたときも、薬を自己判断で減らさない。植物を尊重することと、慎重に扱うことは両立します。
Before you use a plant.
- 和名だけでなく、学名と使用部位が表示されていますか。
- 茶、粉末、チンキ、精油、抽出物のどれですか。
- 一回量、一日量、抽出比、使用期間を確認できますか。
- 処方薬、市販薬、サプリとの相互作用を薬剤師へ相談しましたか。
- 妊娠・授乳、肝腎機能、手術予定に関わる注意はありませんか。
- 異変があったとき、製品とロットを特定できますか。
植物の名前を覚えるだけでは、まだ入口です。部位と製法を知り、量を確かめ、使う人の状態と照らし合わせる。そこまで見て初めて、植物は雰囲気ではなく、扱える知識になります。
一枚の葉から、一本の瓶まで。
そのあいだに起きたことを省略しない。
